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関係者の間で は新資格の効果を疑う声が多い。財務会計士は公認会計士と違い、監査証明業務ができない。金融庁は財務会計士を「財務の調査・相談」「財務書類の作成」「監査の補助」など企業財務の専門家と位置付けるが、これらの業務は無資格でもできる。 日本公認会計士協会の会長は「受験者が目指しているのは公認会計士であって、財務会計士ではない」と話す。大手製造業の人事担当役員は「財務の専門家は自前で育てている。国家資格を作って無理やり受け入れを迫られても困る」と困惑する。 2009年の公認会計士試験に合格した約2000人のうち700人弱が就職できなかった。こうした事態を踏まえ、大塚耕平前金融担当副大臣が中心となって制度改革への懇談会を発足。だが、大塚副大臣が退任した後は「積極的に賛成する人がどこにもいない」(金融庁幹部)状況となった。 新制度は13年に導入される。国際会計基準の導入などを巡って重要な局面を迎える会計士業界。需要側・供給側の双方が首をかしげるなかで、新たな仕組みが動き出す。
一般に、こうした士業関連の制度改正は業界団体が政治家にはたらきかけをして行なわれることが多い。だから、事情を知らない一般の人から見れば、財務会計士という資格も会計士の業界団体が就職難対策として要請したものと受け止められてしまうかも知れない。 しかしながら今回は、会計士協会や各会計士がこぞって反対するという珍しい展開を遂げている。 私個人としても、この資格創設に大いに疑問を感じる。資格の実効性や問題解決の方法論の点で明らかに間違っている。
したがって、財務会計士は実務経験の裏打ちのない、ペーパー上の資格に過ぎない。どの世界でもそうだが、知識は実務経験を通じて判断力が備わり、つかえるものになる。 監査実務で重要なのは、いろいろな会社を見ることができる点にある。いろいろな経験をすることで引き出しが増え、勘がはたらくようになる。個人的なことをいうと、短気な私は5年ともたず監査法人を辞めてしまったが、それでも監査経験が今なお会計士としての職務能力のベースになっている。 企業として欲しいのは実務能力のある人材であり、単なる有資格者ではない。まして、有資格者としてそれなりの処遇をしないといけないとすれば、採用する意味がない。 翻って、受験者の側から見ても、はじめから企業勤務を考えている人などほとんどいないはずだ。企業勤務希望の人だったら、合格するかどうかわからない受験勉強のリスクを取らず、素直に就職活動して「サラリーマン・コース」を選択するはずだ。
就職難の問題の根源は、受け皿の整備をすることなく、急激に合格者を増やしたことにある。もともと800人前後で推移していた合格者数が、数年のうちで一気に2,000人〜3,000人に増えたのである。 合格者増加の目的は、会計士が監査業界にとどまらず、欧米のように企業や行政組織でも広く活躍することを目指していたものだが、そうした文化が根付くには時間がかかる。合格者を増やせば、とろこてん式に自然と企業等に押し出されていくものではない。 就職難問題の対応としては、まずこれまでの誤りを認めて今後の合格者を減らすことだ。その上で、現在の未就職者に関しては個別に就職支援しておくほかない(この点は協会としても取り組んでおり、上記未就職者700人のうち2011年3月時点での未就職者は200人以下に減少している)。 制度運用の誤りを別の制度で糊塗しようとすれば、問題の抜本的な解決がなされず余計に歪めることになる。社会経済の損失をもたらすだけだ。
弁護士にしろ会計士にしろ、大量合格の目的は人材の裾野を広げるとともに利用者にとっての利便性を高めることにあった。しかし残念ながら、人材レベルが明らかに下落しているのが現実であり、今後、利用者にとってもサービス水準の低下を招く懸念がある。
合格者を増やしていく方向性は理解できなくもないが、あまりにも拙速に過ぎた。制度運用の抜本的な見直しが必要だ。 ■論語にいう、「過ちては改むるに憚ること勿れ」、あるいは「過ちを改めざるこれ過ちという 」。 ※なお、財務会計士の制度は法案が国会に上程されたものの、結局削除され、導入は見送られた。 |
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