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トヨタは連結ベースで約2兆3000億円と国内最大規模の余剰資金を抱えており、リスク管理や収益管理の強化が急務となっている。 すでにトヨタは世界4地域でCMSを導入。これまで、トヨタ本体は各地域の子会社の資金状況を把握する役割にとどまっていたが、今後は財務部が「司令塔」となり、日米などの通貨の異なる地域の子会社間の債権と債務を相殺する業務も手掛ける。 債権と債務の相殺で、金融機関に支払う決済手数料の削減や、グループ内融資で金利負担も軽減することができ、年間数億円規模のコスト削減効果があるとみられる。 世界規模での資金管理を本格化することで、同社は潤沢な資金を資金不足の会社に回し、負債と資金を両建てで減らすなど、バランスシートを圧縮する効果も狙っている。 本社が世界の子会社の資金管理に本格着手することでトヨタは「リスクや収益管理も強化できる」(財務部)とみている。
企業グループ全体としては資金に余裕のあるところでも、グループ内には資金が不足している会社が存在するものだ。たとえば、製造子会社が工場を建設しようとすれば資金調達が必要になる。 ここで、グループ会社に余裕資金があれば、グループ内で資金を融通することにより銀行からの借入をせずに済む。そうすることによって外部への利息の支払を減らすことができ、無駄な資金流出を避けることができる。 また、会社というものは資金繰りの安全上、常にある程度の資金残高を抱えている。売掛金などが予想どおりに入金しなくても支払が円滑に行なえるよう、バッファーを抱えておくのである。会社によっては、このバッファーを確保するために外部から借入を行なうこともあるだろう。 ここで、グループ全体として資金残高に余裕があれば、設備投資のケース同様、資金を一元管理することによって無駄な借入をしなくて済む。
但しグループが大きくなり、各会社が独立に運営されるようなると管理がしきれなくなる。また、規模が大きくなった分、「無駄」も大きくなる。そのため、システムを導入して一元管理を実現しようというものである。 そうして、「無駄」な借入金を返済し、昨今の課題であるバランスシートのスリム化と有利子負債の圧縮を実現するのである。大手銀行では取引先の囲い込みを図ろうと、こぞってCMSのサービスを提供している。 このほか、CMSではグループ会社間の債権債務も一元管理して 、個別の決済を行なわずに相殺(ネッティング)処理するのも一般的だ。これにより、決済に伴う送金手数料などを削減することができる。
さらに資金はまとまった方が運用がしやすいし、各会社の財務担当者では資金運用能力に限界がある。そこで、グループの資金を一元管理して信用力の高い金融機関で運用を図ることがリスク管理と収益管理につながる。 特にグローバルに展開する企業グループにとっては、資金に限らず債権債務を含め、グループ全体として通貨ごとのポジション管理を行ない、為替リスクの管理を徹底する必要がある。
たとえば、同じグループ内でA社が100万ドルの売掛債権を有しており、一方、B社が80万ドルの買掛債務を有しているとする。もし債権債務の決済タイミングが同じであれば、為替予約などで対応すべきは債権債務の純額(100万ドル−80万ドル=20万ドル)を対象とすれば足りる。 ここでリスク管理を各社に任せていたら、それぞれ100万ドルと80万ドルの為替予約を打ったり、担当者の相場観の違いからA社とB社で予約レートが異なったり、あるいはA社は(その方が有利と考えて)何もしないかも知れない。
この結果、管理コストの無駄や必要以上のリスクを抱えてしまうおそれが生じる。リスクの一元管理が求められるゆえんである。 ■右肩上がりの時代が終わり、世の中の不確実性が高まっている現在、リスク管理の重要性はかつてないほどに高まっている。 包括的・一元的管理という基本に立ち返ってリスク管理を強化する必要がある。 |
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