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米国では上場企業なら「常備薬」として大多数が持つ。持ち合い解消が加速する中、日本企業も海外企業から防御の甘さを突かれる前に検討すべき制度かも知れない。 18日にオラクルがピープル株の公開買い付け(TOB)価格を引き上げても、売却を決めた株主はほとんどいない。投資家がピープルの価値をより高く見積もっているほか、ポイズン・ピルが効いているため、過半数の株がオラクルに集まることが確実にならないと動けないという。 ポイズン・ピルは一定比率以上の株を特定の個人や企業に買い占められた場合、残りの株主や取締役に各種株式を新たに発行する割当増資を取締役会の判断で実施できる制度だ。 たとえば、既存の普通株の議決権より上位の議決権を持つ優先株を取締役に発行したり、買収成立時に時価の何倍もの株価での買い取り請求権を付けた優先株を特定株主に発行できたりする。 買い手が過半数を取れるかどうか分からない場合、下手に買い手側につくとポイズン・ピルの餌食になりかねない。このため、標的企業の株主は動きにくくなる。 日本でもポイズン・ピルを発行できる余地が出てきた。改正商法で新株予約権のみを発行することが可能になったため。買収のリスクにさらされた場合に、新株予約権を発行すればポイズン・ピルの効果が期待できる。
これに対し、ピープルの市場シェア拡大を恐れたオラクルが横やりを入れるべく、ピープルの買収を企てたのである。 しかも、オラクルは買収後ピープルのシステムは販売しないと明言した。これにより、ピープルの顧客は同社の商品を買い控えざるを得ない。仮に買収が成就しなくてもピープルに打撃を与えられると言われている。 まさに弱肉強食のゲームそのものである。さすがに日本企業同士でここまで「えげつない」ことをすることはないだろうが、日本企業もいつ外資から何をされるか分からない。 事実、ヤクルトが知らぬ間にダノンに株式の20%を握られていたニュースは耳に新しいところだ。
株価が割安だと株主も現経営陣に不満をもっているだろうから、プレミアムをつけた買収提案には応じやすい。 日本の場合、「敵対的買収」は風土的になじまない面もあるが、アメリカでは珍しいことではない。常に買収の脅威に晒されているため、経営陣は過剰なまでに株価を意識し、企業価値を高めるプレッ シャーを背負っている。 ポイズン・ピルといった防衛策もこのような環境の中で生まれた。一方、買収側も相手企業の経営陣が買収に同意するよう、経営陣に対し高額の退職金を約束するなど 懐柔策を考案してきた。
より本質的なことを言えば、企業買収は誰が経営者になるかという話 である。「現経営陣より優れた経営者はいない」と株主から信認を得られるような経営をしていれば買収の脅威は少ない。 また付随的な「株価対策」としては、市場や投資家から適切な評価を得られるように、IR活動を通じて戦略や経営内容を正しく理解してもらうことも重要になってくる。 さらには、近年は多角化した企業では主要事業以外の事業価値が適切に評価されない(コングロマリット・ディスカウントという)として、非主要事業について事業売却したり、株式公開したりして事業価値を顕在化させる動きも進んでいる。
さらに、ベンチャー企業などでは種類株という特殊な株式を特定の株主に発行することにより、持株比率が低くても役員の選任権など経営権を支配できることも可能になっている(もちろん、発行には他の株主の同意が必要だが)。
なお、記事にあるように新株予約権についても買収防衛手段としての活用を期待されている。但し、こうした目的での新株予約権の発行は商法上の「新株予約権の不正発行」に当たるのではないかとの意見もあり、現時点では実務としては確立されてはいないようだ。 ■企業防衛の王道は経営陣が株主から信認を得られるような経営をすることにある。また、商法改正をフォローして防御策を有効活用することも重要である。 |
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