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弱気シグナル「三尊天井」? 市場には強弱感

 

記事要旨 【2003年11月12日 日経 金融】

 
 
日経平均株価や東証株価指数のチャートで「三尊天井」が形成されたのではないかと、市場で話題になっている。3回の株価上昇があり、その2回目が最も高値となるチャートを示す相場用語で、相場が天井を付ける時にみられる

 市場では「三尊天井の形が完成した」との声が出る一方、「チャートにある程度の誤差はつきもので、まだ三尊天井が完成したとは言えない」との見方も根強い。市場ではなお強弱感が対立している

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 主要国で日本は最低水準のROE(株主資本利益率)なのに最高のPER(株価収益率)−−。ある証券会社のストラテジストは10日付のレポートでこんな指摘をし、「持続的な株価上昇には企業収益の大幅な拡大が必要」と結論づけた

 10月時点で日本企業のROEは7%で世界平均のほぼ半分である一方、PERは22倍で世界平均を2割ほど上回っている(下表参照)。これは、「日本企業が予想をはるかに超える利益成長率を見せると先読みされているのか、株価が単に上昇し過ぎているのか、のいずれか」という
 

  PER(倍) ROE(%)
日 本 22.1  6.8
世界平均 18.0 12.6

 

解説・コメント


株式投資における株価の分析手法には大きく言って2つある。ファンダメンタル分析とテクニカル分析だ
 

 ファンダメンタル分析とは、企業の基礎的条件(現在及び将来にわたる収益力や財務内容)を分析することで企業の理論価値を計算し、それと比較して株価が割安であればその企業の株を買い、割高になれば売っていくものだ

 一方、テクニカル分析とは、株価の動きや出来高の推移をもとに株式の売買の的確なタイミングを分析しようというものである。株価の動きなどをグラフにしたものを「チャート」と言い、テクニカル分析の基礎となる

 記事は前段がテクニカル分析の考え方、後段がファンダメンタル分析の考え方を表している。 ちなみにテクニカル分析の立場の人をチャーティスト、ファンダメンタル分析の立場の人をファンダメンタリストと言ったりする


おそらくこのホームページの読者は、どちらの立場に立つかと訊かれたらファンダメンタリストが過半を占めるはずだ。チャートの形が「三尊天井」と言われても、亀甲占いのようにしか思えない人も多いことだろう

 しかし、こうした「占い」は相場関係者に信じられてきた。なぜか。1つに、ファンダメンタル分析では対象とされない、投資の重要な一面を分析するものだからだ。投資家の思惑や群集心理である

 相場というのは、いろいろな人の見方・思惑の集積である。そして、それは必ずしも自分の見方とは一致しない。相場が思うように動けば儲かるし、思惑が外れれば損をする。となれば、企業分析で自分の見方に拘泥するより、相場の見方や動きを分析した方がゲームとしてはクレバーと も考えられる

 簡単な例を見てみよう。株価上昇局面で出来高が減ってきたら、株価上昇は終わりを迎えると言われる。これは、出来高が減るということはその水準で株を買いたい(株価が安い・上がる)と思う人が少なくなっていることを意味し、株価の上昇余地が限られることを指している。こう説明されるとたしかに説得力をもつ。


「占い」が信じられるもう1つの理由は、まさに信じられていることにある。株はみんなが上がると思えば上がるし、下がると思えば下がる。チャートの形が下げのシグナルと信じれば、みんなが売るから実際に株は下がる。群集心理がもたらす自己成就的予言だ。そして占いどおり株が下がれば、信者もまた増えていく

 記事の「三尊天井」は江戸時代の米相場に始まる格言だそうだ。また、アメリカでもこれに相当する「トリプル・トップ」という相場用語もある。古今東西、投資に関する人間の思惑というのは不変ということだろうか。

 テクニカル分析にも様々理論があるらしく、その妥当性については個人的には理解を超える部分も多い。ただ、テクニカル分析を「占い」と切って捨てることは簡単だが、一方のファンダメンタル分析もそれほど確かなものなのだろうか

 実際、(ファンダメンタル分析を基礎とする)証券アナリストに対する機関投資家の第一の不満は「予想が当たらない」ということだ。今春の「ソニー・ショック」のときもソニーに対する批判と同時に、業績悪化を見抜けなったアナリストの能力に対しても深刻な疑念が浴びせられた。

 
ファンダメンタル分析あるいは理論株価(企業価値)の算定評価において重要なのは、その企業の将来の業績を予測することである。しかしながら、将来の業績を正しく予測することはまさに神業だ

 算定された株価は多くの仮定の上に存在する1つの試算に過ぎない。テクニカル分析の理論を「砂上の楼閣理論」と揶揄したりするが、ファンダメンタル価値とて土台が覚束ないのが現実なのである。

 ファンダメンタル分析の難しさという点では、M&Aにおける事業価値評価も同様である。近年の例を見ても、古河電工(ルーセントの光ファイバー事業買収)、NTTドコモ(KPNモバイル)、NTTコミュニケーション(ベリオ)などが結果として事業評価を誤り、数千億円単位もの投資損失を計上している 。

  財務を勉強していると、つい「計算のしかた」が正しければ出てきた答えは正しいと信じてしまいがちである。しかし、計算の前提条件が予測や仮定という頼りないものである以上、いかに精緻な計算をしたところで自己満足の域を出ない。財務に携わる人間にはバランス感覚と謙虚さが求められるゆえんである
 

株価や事業の評価に万能な分析手法はあり得ない。限界を認識しながら、謙虚さをもって行なうことが必要だ


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