|
この事件で支店長を人質に取り、会社側に要求したのは「直近3ヶ月分の委託配送料25万円の支払い」だったとされる。月収に換算すれば8万円余だ。業界最大手で事業モデルの生みの親でもある「軽貨急配」の西原社長は言う。 「我々も、個人事業主に対してかつては『1ヶ月に5万円しか稼げないのはお前が悪い』という理屈を振り回していた。我々に明確な違法行為がなかったとしても、個人事業主の1ヶ月の手取額が5万円や8万円というのは、やはり、社会通念から見て、正当化できるものではない」 軽貨物商法の基本的な仕組みはこうだ。まず、軽貨急配は「オーナーオペレーター」と呼ぶ個人事業主を募集する。事業主には運送用に仕様変更した軽トラックを販売し、業務委託契約を結ぶ。 次に、荷主企業に営業をかけて、他の業者が運ばない規格外サイズなどの配送業務を請け負い、個人事業主に委託する。軽貨急配は、個人事業主に対する軽トラックの販売と配送委託の両方で利益を得る。 西原社長は今回の爆破事件の2年以上も前から、この事業に潜む危うさを感じ取っていた。それは、軽トラック販売事業(個人事業主の開業支援事業)の抱えるリスクが、次第に大きくなってきたことだ。 軽貨急配のバランスシートを見ると、2002年3月期に長期未収入金と破綻債権が合わせて34億円にのぼった。多くは個人事業主が軽トラックを購入する際に、子会社を通じて融資したローンや、クレジット会社に同社が債務保証したローンの焦げ付き分だ。 同社はこの問題に対し、時間通り出勤してきた事業主には荷物がなくても1日1万3000円の売上を保証したり、軽トラック販売にクーリングオフ制度を導入するなどの対策を講じてきた。 さらに根本的な事業構造改革を進めようとしている。個人事業主の開業支援を外部の企業に委託する一方、積み合わせ小口配送事業に参入し運送事業へのシフトを図っている。 社会的リスクの高い個人事業主相手の商売から順次、手を引き、業務提携した物流企業を使って、リスクが少なく利益率の高い小口配送事業に舵を切る−−。改革はうまくいっているようにも見えるが、形式的なリスク回避策でしかなく、構造転換の成否は時間との競争でもある。
自らは資産を持たず、事業主に営業資産(トラック)を持たせて、配送業務を委託して口銭を取る。しかも、トラックの販売は粗利が高い−−。軽貨物商法のビジネスモデルは、リスクが小さく、利益も取れる、よくできたビジネスモデルに見える。 しかし実際には、事業主に移転したはずのリスクが債権の焦げ付きのかたちで自らに跳ね返ってきた。このビジネスモデルはどこに問題があるのだろう。
ここで、トラック販売が増え、事業者数が拡大すると、事業者1人当たりの配送収入は少なくなる。そうすると、事業者の商売が成り立たなくなり、ローンの支払ができなくなる。ローンが焦げ付くわけだ。 あるいは、そもそも配送業務は安い単価の仕事しか受注できず、事業者はフルに働いても商売にならないのかも知れない。いずれにしても、トラック販売と配送委託(荷主への営業力)のバランスが取れていないとこのビジネスモデルはうまく行かない。 (仮に事業者が自己資金でトラックを購入し、ローン焦げ付きの問題が生じないとしても、事業者の商売が成り立たなければ新たな事業者の獲得はままならなくなるだろうし、あるいは今回のような事件が発生するなどして社会問題化することでビジネスモデルは破綻をきたすなり、修正を迫られることになる)
また、トラック販売事業のアウトソーシングについても、最終事業者の商売が成り立たないという根本問題が解決されなければ委託先の商売もまた成立するはずがなく、記事にあるとおり形式的なリスク回避に過ぎない。 実際、アウトソーシングは順調にいっていないという。 結局、記事にあるとおり運送事業がうまく行かないとビジネスとして成立しないだろう。トラック販売の収益も広い意味で考えれば事業者に対する運送の営業代行の手数料だから、ビジネスモデル上、運送事業が事業の成否を分けることだけは間違いない。
当たり前のことだが、顧客は取引に値する効用なりリターンを認識するからこそ取引をしてくれるわけで、単に顧客を食いものにする商売は永続しない。もし「商売」として成立するとすると、内職商法などの悪徳業者のように「ヒットエンドラン」で継続を前提としない場合だ。 顧客以外との関係についても同様だ。以前、三城が店舗の8割を従業員に「のれん分け」する計画について取り上げたことがあるが、これも従業員にリスクを半強制的に負担させるものとも言え、どの程度実現するかどうかは疑問のあるところである。
ビジネスはある意味リスクの押し付け合いである。
自社のリスクはとことん排除したいと考えるのは当然だろう。しかし一方で、リターンはリスクを取ることに対する報奨だということも忘れてはならない。リスクの移転も度が過ぎると、訴訟や事件など「評判リスク」という無限リスクとして跳ね返ってくるおそれがある。 ■取引相手(利害関係者)に一 方的に過大なリスクを押し付けるビジネスモデルは存続し得ない。むしろ、財務的にも社会的にもしっぺ返しを食うおそれがあることを認識しておく必要がある。 |
(C)公認会計士米井靖雄事務所 1999-2011 |