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日航会長、整理解雇訴訟「大変だけど認めて欲しい」

 

記事要旨 【2011年1月19日 日経 】

 
 日本航空の稲盛会長は19日の記者会見で、同社を解雇されたパイロットや客室乗務員146人が日航を相手取り東京地裁に訴訟を起こしたことについて「断腸の思いだが、(更生計画に盛り込んだ人員削減の)約束事を破ると 、今後の(日航)再生のプラスにならない。大変だけど認めて欲しい」と述べた。

  大西社長は整理解雇に必要とされる「必要性」「人選の妥当性」など4要件について「満たしている」との認識を示した。

 日航の管財人である企業再生支援機構の瀬戸委員長は「通常会社だったら破産、清算せざるを得ない会社で3万人以上の雇用を確保したことをご理解いただきたい」と語った。

 

解説・コメント


まず、読者としては記事にある「整理解雇の4要件」が気になるところであろう。これは、最高裁の判例によるもので、整理解雇を行なう際に必要な要件とされる。

1.人員整理の必要性
整理解雇をしなければ経営を維持できないという程度の必要性が認められなければならない。

2.解雇回避努力義務の履行
人員整理は経営上の最終手段であり、役員報酬の削減、新規採用の抑制、賃金・賞与の削減、希望退職者の募集等の整理解雇を回避するための措置が履行されている必要がある。

3.被解雇者選定の合理性
解雇の人選基準が合理的であり、具体的人選も合理的かつ公平でなければならない

4.手続の妥当性
労働組合(もしくは従業員代表)と十分な協議がなされ、従業員側に説明し、納得を得るための手順を踏む必要がある


当事者でないので詳しい状況は承知しないが、裁判では上記4要件は満たしていると認定され、原告(元従業員)敗訴に終わるだろう。 倒産状況にある以上、 よほどのこと(組合活動家狙い撃ち等)でないかぎり、要件は充足していると判断されるはずだ。

 語弊はあるかも知れないが、整理解雇は現時点での会社への収益貢献の期待値に基づいて人選しているはずで、いきおい対象者は中高年等の再就職が難しい人になってしまう。その分、余計に対象者の反発は大きくなり、裁判にまで至ってしまう。

 また、当人からすれば、整理解雇は生活面での大きな不安をもたらすだけでなく、人格や人生の否定という意味での精神的ショックも感じてしまうので、受け入れがたい事実ではあろう。


■一方で、事業再生に関わる者としては、人員整理をする側の経営者の痛みも知って欲しいところである。

 世の大半の経営者は、好き好んで人員整理をしているわけではない。特に中小企業であれば従業員の顔やその家族の状況も分かるので、なおさらだ。「経営者が優しくて、必要なリストラを実行できなった」というのが中小企業の倒産の1つのパターンだったりもする。

 そういった意味で事業再生の仕事の1つは、経営者自身では決断しづらいリストラなどの施策を外部から主導することでもある。

 
■世の中、経営者と従業員の間での意識のギャップは大きい。特に業績が芳しくないときには、そのギャップは大きくなる。

 業績不振の会社では、経営者が無給であることも多い。また、親戚知人から借入をし、場合によってはノンバンク・ヤミ金から借入をしながら資金繰りをしのいでいる。倒産すれば、自らも破産を迫られる。経営者からすれば、本来第一に守るべき自分の家族を犠牲にしながら従業員の生活を守っているという意識である。

 翻って従業員からは、「社長が無能だから給与が上がらず、ボーナスも出ない」という恨み節が聞かれる。記事のJALのケースでも、 「(倒産は)自分たちに責任がない」と主張している。

 このホームページは「経営者のための財務管理」というタイトルにしているが、実際の閲覧者はサラリーマンの方が多い。そこで、サラリーマン諸氏にお願いしたい。経営者の苦悩にも少し目を向けていただければと思う。そうして負の気持ちを切り替えることが、会社や自らを守ることにもつながる。
 

従業員ひとりひとりの活動によって会社が成り立っている以上、従業員にとっても経営は他人事でない。 ひとりひとりが経営を意識して行動することが、自分たちの生活を守り、向上させていくことにもなる。


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