――●株価は誰が決めるのか
「株価は誰が決めるのか」 ―― この問いに対して多くの方が、株を買う人、すなわち投資家、市場(マーケット)と答えることでしょう。果たしてそうでしょうか。では、投資家は何に基づいて株価(売り買いの値段)を決めるのでしょう。株価が上がるのとはどういったことでしょう。あるいは、株価が下がるのはどういったことでしょう。
この辺のことを正しく理解することが、資本コストや企業価値経営(株主価値経営)を理解する上でのポイントになります。
――●資本コストの構成要素
「本題」に入る前に、資本コストについて少し復習をしておきましょう。資本コストの構成要素は次のようになっていま
す。
┌負債の資本コスト・・・@支払利息
資本コスト――┤
└株式の資本コスト・・・A配当
・・B株式値上がり益
資本コストは資金の調達コストですから、資金調達の種類に応じ負債の資本コストと株式の資本コストに分けられます。負債の調達コストは銀行に支払う金利、株式の調達コストは株主へ払う金利と株式の値上がり益です。
ここで、支払利息と配当については資本コストとして素直に理解できることでしょう。それに対し、株式の値上がり益についてはこんな声が聞こえてきそうです。すなわち、株価はマーケットが決めるものなのだからそれを「コスト」と考えるのはおかしいのではないか。
――●企業価値と株価の関係
「株価の値上がり益が資本コストになる」、また冒頭に示した「株価は誰が決めるものか」、これらの命題は企業経営と株価の関係を正しく理解するという命題に帰結します。
ここで順序だてて考えるために、もうひとつ命題を付け加えてみましょう。――企業価値は何によって測られるのでしょう。
(
株式上場企業を前提とした場合、)企業価値は株価の時価総額というのが一般的な答えでしょう。その意味では企業価値は投資家・マーケットが決めるものです。
しかし、これはものごとの表面しか捉えていません。株価の時価総額が企業価値を表すのではなく、企業価値が結果として株価(の時価総額)に反映されるものなのです。この因果関係を正しく認識することが、非常に重要です。
財務理論の上では、1つの企業の価値は、その企業が中長期的に(清算されるまでに)稼ぎ出す儲けの総和(プラス元手の出資額)で計算されます。非現実的な仮定ですが、1年限定・元手10億円で発足した企業がその1年で5億円の儲けを稼ぐとすると、その企業の価値は元手の10億円プラス儲けの5億円、都合15億円となります。
このとき、あなたはいくらならこの企業を買うでしょう。きっと「
最大15億円」でしょう。それはこの企業の価値が15億円だからです。15億円以上で買えば間違いなく損をします。逆に15億円より安い値段なら、確実に儲けが出るので「買い」でしょう。
投機的な株取引は別として、企業の値段(株価)はその企業の企業価値をもとに決まるものです。決して株価が企業価値を決めるものではありません。