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長期の賃貸契約だと千万単位の保証金が必要だが、週替わり店舗なら1日数万円の賃料だけで済む。常設店と違い、売れ行きが不調でも負担は最小限に抑えられる。 使った分だけお支払いください−−。日本HPが大型サーバーで今月からこんなサービスを始めた。サーバー稼働率を5分ごとに計測、毎月の平均稼働率に応じた使用料を請求する。 「本当に投資に見合う効果があるのか」。企業の大型サーバーの平均稼働率は40%。しかも技術進化で性能当たり単価は3年で4分の1に下落、資産価値はあっという間に消えてゆく。 「使っただけサービス」は機器販売の大幅減を招きかねない。だが、顧客の効率向上で稼ぐ体制に移行しなければIT機器デフレの波に沈むという危機感が大胆な発想転換を促した。 不動産、設備、人。企業は経営の前提と思い込んできた「固定資産」を根本から見直すことでデフレを生き抜くすべを見つけようとしている。 個々の克服策は全体の縮小均衡を招き、デフレを加速する恐れもある。「負の連鎖」を回避するには、吐き出された経営資源を新たな成長の目に振り向ける市場機能と、自由な発想を実現する規制緩和が何より大切だ。
まず、価格下落リスクについて見ると、 バブル崩壊や不況型のデフレによる資産価格の下落だけでなく、記事にあるような技術革新に伴うデフレも見られる。 さらに、中国・東欧 ・インドなど旧東側経済圏や第三世界における労働力の開放が賃金デフレを招き、先進各国において物価下落圧力となっている。 一方、成熟経済を迎えた今、事業の不確実性は高まっている。右肩上がりの時代は、経営資源(ヒトやモノ)を確保して機会損失を招かないことが重要だった。しかしながら、先の読めない時代にあってはいたずらにヒトやモノを抱えることは大きなリスクとなってはね返る。
また、前回取り上げた三城のように、既存の固定費についても「柔らかく」しようと動いている企業は多い。三城ほど大胆でないにせよ、正社員を派遣社員やアルバイトなどの非正社員に切り替えるのは1つのトレンドと言ってもいい。 何年か前に「コアコンピタンス経営」という言葉が流行った。自社の強みの源泉に徹底的にフォーカスする経営のことだ。その手法の1つは、コアコンピタンスに関係ない業務(研究開発型企業にとっての製造業務など)のアウトソーシングだ。 結局のところ、コアコンピタンス経営の含意は、自社が勝負できる事業領域・ビジネスプロセスに特化して身軽な体制を敷き、変化と競争の激しい時代に対応しろ、ということだ。固い費用を徹底的に柔らかくしようとすれば、ここに行き着く。
また、こうした時代の流れに呼応して経営資源の流動化、コモディティー(商品)化が進んでいる。端的な例が派遣社員だろう。派遣会社が派遣社員という市場を運営し、企業は必要な人材を必要なだけ「利用」できる。規制緩和によって派遣対象の職種も広がり、人材市場としての位置づけも高まっている。 経営資源がいつでも簡単に手に入るなら無理に抱える必要はない。逆にこうしたニーズを捉えた「市場」の運営はいろいろな分野で進んでいくことだろう。
しかしながら一方で、効率的市場の登場は「余分な」需要をなくす。そのため記事で指摘するように、新たな産業が起こり、そこに余った経営資源が移転していかないと経済規模の縮小を招く。
世界的に見れば、否応なく市場主義経済の「高度化」は進んでいく。翻って、日本では構造改革の歩みは遅く、市場機能の向上が進んでいない。昨今、デフレに関する議論がかまびすしいが、このギャップを埋めない限り根本的なデフレ克服は望めないように思える。 ■市場主義経済の「高度化」は確実に進行する。企業経営もこれに対応し、これを利用していかないとデフレの波に飲み込まれてしまう。 |
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