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          (A)実質的な資産価値と正常な収益力
を把握しつつ、実務上の問題点を検討しておく。   | 
         
       
                        
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 一般に、クライアントもしくは案件の対象企業の財務内容を把握するのは会計士の役割でしょう。しかしながら、案件が持ち込まれた相談段階では自らがある程度の状況把握をする必要があります。
また、企業法務を扱う以上、経営・ビジネスを理解しないと案件は深く理解できないはずで、決算書はその出発点にもなります。                            
                           
 そこで、事業再生やM&A案件を念頭に弁護士として決算書を見るときに注意すべき点
(あるいは決算書から想像できる点、決算書をもとに確認すべき点)を勘定科目ごとに解説します。なお、そもそも「決算書とは?」という段階から始まる方は、まず「会計の基礎」をお読み下さい。                            
                           
 
――@貸借対照表のチェックポイント     
    
  
 貸借対照表のチェックポイントは財務実態の把握です。未上場会社の場合、多くの決算書は実態を表していません。
法的整理をかける会社でも多くの場合、決算上は資産超過になっています。不良資産を差し引くと実態的にはどのくらいの資産価値があり、さらに担保状況を考慮すると実質的な会社資産はどのくらいかを把握することが重要です。     
    
 
【現預金】 
・現金商売の場合は現金の管理方法 
・担保預金はあるか?引出しがロックされている口座はあるか? 
・支払手形の決済口座は?売掛金の入金口座は?     
    
 事業再生、とりわけ法的整理も視野に入れた煮詰まった状況においては、自由になるキャッシュがいくらあるのか、あるいはどのタイミングでいくら作れるのかが重要になってきます。一般に
、会社は複数の預金口座を使い分けていますから、状況が許せば入金口座の変更等により自由になる銀行の預金残高を増やすことも検討課題になります。     
    
 
【受取手形】 
・割引はあるか?割引先は?割引枠に余裕はあるか? 
・手形は手許にあるか、銀行へ取立依頼に回しているか? 
・手形の振出先はどこか?優良手形はあるか?不渡手形はあるか? 
・融通手形はあるか?     
    
 受取手形は銘柄によっては早期の資金化が可能な資産であり、資金の繰り回しが必要な状況にあっては重要な資産です。一方で、担保見合いとして一定額を銀行に差し入れることを求められているケースも多く、また期日の近い手形は銀行に取立依頼に回して
いて結果として銀行に押えられてしまうこともあります。なお、受取手形と支払手形が同じ相手先の場合、融通手形である可能性が高く、資金繰りはかなり厳しい状況にあることが想定されます
。但し、通常は銀行対策上、決算書に融通手形は記載しないものと考えれます。     
    
 
【売掛金】 
・滞留債権はあるか?架空計上はあるか? 
・入金サイトはどのくらいか?入金サイトから見て残高に異常はないか? 
・担保状況は?担保の有効性は?     
    
 一般に再生型の法的整理を申し立てる場合には
、運転資金の確保が必要条件です。このとき、売掛金が一番重要な原資になります。翻って、売掛金が金融機関等への担保となっている場合には、再生の阻害要因となります。とりわけ、医療機関のレセプト担保融資のように全面的に売掛金を担保としている場合には
、融資が止まれば資金繰りが破綻するわけで、融資先に生殺与奪の権を握られてしまう(場合によっては、整理屋に入り込まれた)状況に陥ります。なお、売掛金の担保(債権譲渡担保)は、銀行が取っている場合でも手続きが中途半端で対抗要件を満たしていないこともあるので、法的有効性の確認が欠かせないところです。     
    
 また、売掛金のすべてが正常債権であることは考えにくく、不良債権が含まれていることが大半です。さらに、最も単純な粉飾である架空売上が行なわれている場合には、架空の売掛金が根雪のように残高を膨らまします。業界の一般的な決済条件に照らして売上に比して売掛金の残高が多い場合には、不良債権や架空債権の存在が疑われます。こうした不良債権は再生案件において債務免除益課税対策上の障害になってくることもあるので、注意が必要です。     
    
 
【棚卸資産(商品・製品・原材料等)】 
・実売可能性は?滞留在庫・陳腐化在庫はあるか?架空計上はあるか? 
・担保状況は?担保の有効性は? 
・倉庫の態様は(自社管理か、外部倉庫委託か)? 
・原材料等は汎用品か?特注品か?     
    
 最近は、金融機関の保全策として在庫を担保で押えることも多くなってきました。民事再生の案件では在庫を担保解放をしてもらうことが事業継続に必須であり、資金負担が生じます。同様に、倉庫業務を外部委託している場合には留置権の問題が生じ、未払いの倉庫費用がかさんでいる場合には障害になります。
なお、在庫の担保についても売掛金同様に有効性の確認が重要です。     
    
 また、在庫が汎用品か、特注品かという点にも注意が必要です。資金化の難易度に差が生じることに加え、製造業が法的整理を申し立てた場合には材料が特注品だと支払いが
COD(代金引換)ではなく、発注時に代金の前払いを求められることも多く、運転資金の負担が重くなる傾向があります。     
    
 
【その他流動資産(仮払金・立替金・未収入金・短期貸付金等)】 
・債権の回収可能性は?債権の内容は? 
・債権の相手先は誰か?役員や関係会社に対する債権残高は?     
    
 その他流動資産の残高が多い場合、粉飾が疑われます。役員に対する仮払金や貸付金は、実質的には役員報酬であるものの経費処理できないために資産処理しているケースが多くあります。関係会社に対する債権を含め、多くの債権も焦げ付いている(役員貸付金同様、そもそも費用計上すべきところを資産処理している)ものと想定されます。     
    
 
【不動産(土地・建物・建物附属設備・構築物)】 
・利用状況は? 
・時価評価は?評価損益は?鑑定評価書はあるか?路線価・固定資産税評価額は? 
・担保状況は? 
・権利関係は?競売しやすい物件か? 
・環境汚染(土壌汚染、アスベスト等)の可能性は?     
    
 銀行から見れば不動産はいちばん重要な担保であり、中小中堅企業では所有不動産の大半が借入金の担保となっているのが通常です。不動産を時価評価してみて各銀行の保全状況がどうなっているのか、またどの不動産(事業用資産か、事業外資産か)をどの銀行が押えているのかによってそれぞれの銀行対応は異なるでしょう。担保余剰のある不動産の有無の確認も必要になるでしょう(複数の担保不動産がある場合、充当の仕方によっては余剰が生じることもあります)。     
    
 また、不動産については税務上の判断が重要になってくることがあります。不動産は時価評価した場合に含み損を抱えているケースが多いですが、社歴が長い会社では大きな含み益が生じていることがあります。
このような会社のM&Aでは、スキームによっては多額の売却益が生じて納税負担が発生することもあり、スキームの見直しを含めた税務対策が必要になってきます
(再生案件で資産処分する際も同様)。また、スキームによって不動産取得時のコスト(登録免許税、不動産取得税)が異なるので、不動産金額が大きい場合には注意が必要です。     
    
 
【その他償却資産(機械装置・車両運搬具・器具備品・ソフトウェア・特許権等)】 
・償却不足はないか?遊休設備はないか?除却済資産は計上されていないか? 
・設備投資の必要性は? 
・割賦購入している資産はないか? 
・リース契約の資産はないか?リース資産はすべて資産計上しているか? 
・処分に費用のかかる設備はないか?     
    
 機械設備類の重要度は対象会社の事業によって様々でしょう。製造業や設備産業では設備が競争力の源泉になり、経営不振企業では十分な設備投資ができずにさらに競争力を失っていくという悪循環に陥る傾向があります(
JALが、燃費のいい航空機に買い換えることを再生プランに組み入れたことは記憶に新しいところです)。また、技術開発好きな経営者による過大投資が経営不振を招く例も多いものです。     
    
 設備は処分価値という点ではほとんど価値がない(むしろ処分費用がかかる)ものです。一方で、割賦等により別除権の対象となっているとき、特にメーカーが別除権者となっているときは
、金融機関相手のような「合理的な」交渉がきかないこともあるので注意が必要です。     
    
 なお、特許権や商標権等の知的財産権が決算書に計上されていることは稀ですので、決算書に計上がないからといって知的財産権の保有がないわけではありません。     
    
 
【投資その他資産(子会社株式・投資有価証券・長期貸付金・敷金保証金等)】 
・投融資の相手先は?関係は?財務状況は?回収可能性は? 
・担保状況は? 
・賃貸借契約の内容は? 
・グループ会社等への保証債務はないか?     
    
 事業規模に比して投資資産の残高が大きい会社は、財務的に問題を抱えているケースが多いものです。投資資産は事業外の資産であることが多く(飲食
チェーンのように店舗の賃借保証金がかさむケースなどは別)、事業に貢献にしないだけでなく、往々にしてその投資は収益を生むどころか焦げ付いていることが多いのが実情です(世の中、投資話が好きな経営者は多い)。また、投資資産は償却資産と違って償却による節税効果をもたないことから、完全に「おカネが寝る」ことになり、その意味でも財務を圧迫します。     
    
 なお、子会社をはじめグループ会社がある場合には、それぞれの会社の財務状況やグループ間の債権債務の状況、取引関係を含め、グループ全体としても状況把握が必要になってきます。また、グループ会社単独のM&Aの場合には、グループから離れて自活できるか(スタンドアローンリスク)の検討が必要です。     
    
 このほか、特に再生型M&Aの場合には賃借不動産のオーナーの同意取付けがM&A遂行の障害になることもあるので、契約内容やオーナーとの関係等についても事前の検討が重要です。     
    
 
【支払手形・買掛金】 
・決済条件(支払サイト)は? 
・延滞はないか?計上もれ(簿外債務)はないか? 
・手形の振り出し方は(相手先、手形の枚数)? 
・決済目的以外(借入目的)の手形はあるか? 
・代替できない重要な取引先はあるか?連鎖倒産の可能性のある取引先はあるか?     
    
 M&Aであれ、事業再生であれ、仕入先・外注先との取引継続がなければ事業は存続できません。M&Aや法的整理申立後も取引先がついてきてくれるかは重要な検討ポイントです。業界(卸売業など)によっては一度でも不義理をすると、現金取引でも取引に応じてもらえない業界もあり、業界事情がスキームを制約することもあります。     
    
 
【有利子負債(短期借入金・長期借入金・社債)】 
・借入内容は?借入先は?借入先との関係は?個人名義(経由)での借入はあるか? 
・返済状況は? 
・各行の保全状況・保全内容(保証協会含む)は? 
・連帯保証人の状況は?物上保証はあるか? 
・各行の融資(回収)姿勢は? 
・デリバティブ契約はあるか?     
    
 再生案件の場合、有利子負債の状況によって案件の重症度を見極めることが案件の出発点になります。一般論でいえば、次の順で症状が軽症から重症に進んでいます。 
 @代表者・親戚等からの個人借入がある 
 A借入の延滞(リスケ)がある 
 Bノンバンク(商工ローン)からの借入がある 
(銀行対策上、商工ローンからの借入を個人名義で行なって会社に貸していることもあるので、個人借入は実質的な借入先の確認が必要です)     
    
 保全状況によってそれぞれの銀行対応は変わってくるでしょうし、スキームにも影響します。また、個人保証が代表者以外(息子や役員、知人等)にも及んでいるときには経営判断の障害になり、結果としてソフトランディングが困難になることがあります。     
    
 
【その他の負債(未払金・未払法人税等・預り金・退職給付引当金等】 
・公租公課や給与に延滞はあるか? 
・退職金制度の内容は?退職債務を計算するといくらか? 
・延滞はないか?計上もれ(簿外債務)はないか? 
・解約により違約金の発生する取引はないか?     
    
 このほか、負債項目で重要なのは優先債権の状況把握です。企業が経営不振に陥り、資金繰りに窮すると、まずは社会保険や税金の滞納を始めます。従業員の多い会社では社会保険料の延滞額は簡単に膨らみます。
また、社歴の長い会社では従業員の退職債務が多額となり、再生やM&A時に障害となることがあります。なお、退職金を外部に積み立てている場合でも必要な退職金に比して積立不足が生じていることが多いので、注意が必要です。     
    
 
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