右肩上がりのトレンドがとうに終焉を迎えた現在、企業はかつての固定費型の費用構造から変動費型の費用構造
へと転換を進めています。固定費の典型である人件費もその例外ではありません。
――●高度成長期の費用構造
高度成長期の経済にあっては単純に言ってしまえば「作れば売れる」時代であったため、いかに経営資源を確保するか、いかにモノを作る体制を確保するかが経営の基礎課題でした。
そこで、ヒトに関しても
終身雇用と年功序列により従業員を囲い込んで確保し、組織を安定的に運営することが行われたのです(終身雇用はかつての「日本的経営」の象徴として文化と結びつけられることがありますが、実際には戦後になって一般化したものです)。
なお、この日本型人事制度は人件費をまさに固定化するものですが、一方で固定費水準を下げるシステムでもありました。年功序列制度を財務の視点で見ると、若いときは実際のはたらきぶりに比べて安い給与となるものの、定年前にはその逆ではたらきに比べ高い給与となり、雇用期間を通じて帳尻が合うようにするものです。この給与システムにより、団塊の世代に象徴されるような三角形型の人口ピラミッド構造のもとで多くの若い労働力を相対に低い給与で確保することができたわけです。
――●人件費の変動費化
しかし、高度成長期の終焉や人口構造の変化によって日本型人事制度は維持できなくなりました。かつての安価な若年労働力であった団塊の世代が「回収期」に入って人件費負担が増し、一方でそれを支える若年労働力は少子化により減少しました。このような中、バブル崩壊以後、団塊の世代を中心にリストラが行われるようになりました。
これと合わせて、人件費を収益状況に合わせて変動費化させる動きが進みました。非正規従業員(パート・アルバイト、派遣社員、期間従業員)の比率を高めたり、正規従業員の人件費に関してもかつてのような定期昇給を抑え、賞与の位置づけを重くして成果配分型のしくみに移行しています。