費用を変動費にするか固定費にするかは、誰がリスクを負担するかという問題です。なぜなら、リスクの本質は「変動すること」にあるからです。
これは為替レートの例で考えれば分かります。為替は、「円高」や「円安」自体が損失をもたらすわけではありません。円安局面では、ドル預金をすれば差益を享受できます。逆に円高局面では、ドル建ての借入をすれば、円ベースではマイナスの財産が減っていくわけで、これも差益にほかなりません。
結局、意図せざる変動こそが損失をもたらすのです。円安を当てこんだドル預金は、円高に振れた場合に為替差損を被ります。
――●固定費とリスク管理
費用を固定費にするということは、自ら変動リスクを引き受けるということです。だから、ハイリスク・ハイリターンになる。一方、費用を変動費にするということは、相手方にリスクを負担してもらうということです。ゆえにリスクが小さい代わりにリターンも小さい。
リスクに対する感覚(リスク選好)は人それぞれです。
経営者は、大体においてリスクを取る気概の持ち主でしょう。逆を言えば、そうした度量がなければ社長は務まらない。しかし、一方でリスクは管理するものでもあります。管理なきリスク・テイクは蛮勇と呼ばれます。しかも、
企業の経営は個人の冒険と違い、多くの人々の生活を巻き込みます。
リスク管理は財務が担当する、後ろ向きの仕事のように思いがちです。たとえば費用を変動費化するのは、売上が読みどおりに行かないときのためのリスクヘッジです。
しかし、リスク管理の第一歩はマーケティングにあると考えます。売上が読みどおりになる、裏を返せば売上予測の確度を高めることこそリスク管理なのです。なぜなら、リスクとは、上述したように「読みを外れて変動すること」だからです。
この点で、販売計画
(需要予測)の確度ほど重要なものはありません。
失敗例の典型を挙げれば、いまだに続くいわゆる箱モノ行政です。たとえば、過大な需要予測に基づき地方に空港を建設する。しかし、フタを開けてみれば予測の半分にも満たない利用しかない。莫大な建設費を回収できないばかりか、維持費もかさんで巨額の赤字が累積していく。
(箱モノ行政の場合は、まず建設ありきで、需要予測はそれに合せて逆算で作成しているのが実情でしょうが)
企業経営においても、工場を建設するときには、販売計画に基づき生産能力を決め、それに見合った規模の工場を建設するでしょう。売上予測が外れれば外れるほど、被る損失も大きくなるわけです。売上予測は二重の意味で重要なのです。
新製品を発売するときに、地域限定で先行販売し、反応がよければ全国展開して本格的な販売を行なうといったことが行なわれることがあります。これは、テストマーケティングと呼ばれる手法で需要予測を必ずしも第一義的な目的としたものではありませんが、「小さく始める」というのは1つの重要な考え方といえます。