固定費・変動費の問題は、高度な経営判断を要する問題です。とりわけ現在は社会経済の変革期にあり、いち早くビジネスモデルを構築できるかどうかに事業の成否がかかっています。「早い者勝ち」の時代に、固定費がかかると投資を逡巡していては、事業の成功は覚束ないでしょう。
あるいは事業が軌道に乗った後でも、リスクを恐れて追加投資を模様眺めにすれば、競合に市場を一気に押さえられてしまうかも知れないし、莫大な機会損失(売り逃し)が発生するかも知れません。
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職業柄、心配になってしまうのは、「***ブーム」というニュースを見たときです。ある製品がメーカーが意図しないブームになってしまい、生産が間に合わずに品切れ(売り逃し)をきたす。慌てて増産に乗り出すものの製造ラインの増設が完了した頃にはブームが去って、結局赤字だけが残ってしまう・・・)
――●損益分岐点の管理
固定費か変動費かという問題は、最低限見込まれる売上レベルに合わせて固定費を抱え、それを超える部分は変動費で対応するのというが、机上の「最適解」でしょう。
しかしそれはまさに机上の話であって、実際には最低の売上レベルの予測すら難しい。
どういった決断をするにせよ、大きな投資(設備投資、人材採用、広告宣伝等)をする際には、予め損益分岐点の水準がどうなるかを予測しておく必要があります。固定費水準の引き上げは企業の存続を脅かすことになるからです。
翻って、固定費水準を引き下げる判断(決断)もまた難しいものです。日本の人口が減少していく中で、あるいは産業構造が変化していく中で、構造不況業種というのは必ず存在します。構造的な問題でなくとも事業が不振に陥れば、体制を縮小して売上に見合った損益分岐点まで固定費水準を引き下げる必要が生じます。
固定費引き下げ(事業縮小)の判断が難しいのは、人件費(ヒト)の問題が絡んでくるからです。誰も好き好んで従業員の職を奪ったり、給与を下げたりはしたくありません。特に中小企業の場合は、経営者が従業員ひとりひとりの顔を分かっているだけになかなか決断しにくいものです。
しかしながら、再生の仕事をしている立場でいうと、この辛い決断をできるかどうかが企業の最終的な生死を分けてしまうというのが現実です。
前向きの判断であれ、後ろ向きの判断であれ、日頃から自社の固定費水準と限界利益率を把握し、損益分岐点を意識しながら経営を進めることは財務管理の第一歩です。