現在価値とは、読んで字のごとく「現在の価値」のことです。では、何の「現在価値」かと言えば、将来におけるキャッシュが現在のいくらに相当するかということです。
――●金銭の時間的価値
設例をつかって、この現在価値の考え方を見ていきましょう。
今、あなたがある企業の100万円の懸賞に当たったとします。但し、受取方法は2つあり、1つは今すぐに受け取る方法、もう1つは1年後に受け取る方法です。さて、あなたはどちらの受け取りを選択するでしょう。
おそらくよほどの「あまのじゃく」の人でない限り、今すぐ受け取る方を選択するでしょう。では何故そういった選択をするのでしょう。背景にある考え方は2つあります。
1つは、今100万円を受け取れば、それを運用することで1年後には100万円以上にすることができるからです。もともと「あぶく銭」だと思えば、思い切った投資ができるかも知れません。その結果、1年後には100万円が150万円、200万円になっているかも知れません(仮に堅実に運用しても何がしかの利息はつくでしょう)。
もう1つは、1年後の受け取りを選択するとそれまでの間に懸賞を主催した企業が倒産してしまい、懸賞金を受け取れなくなるリスクがあるからです。「もらえるときにもらっておく」という考え方です。
この結果、私たちは今の100万円のほうが1年後の100万円よりも価値があると判断し、今すぐ受け取る方を選択するわけです。このようにキャッシュの価値というものは同じ金額であっても、現在と将来とでは異なります。すなわち、お金には時間的価値というものがあるのです。
さて上の設例で、もし1年後に懸賞金を受け取る場合の金額が100万円以上だとしたら、選択はばらけてくることでしょう。果たして皆さんは、1年後の懸賞がいくらだったら選択を迷い始めることでしょう。
実際に迷う金額というのは人により様々でしょう。また、懸賞を主催する会社がたとえば
トヨタのような大企業なのか、それとも名も知らぬ会社なのかによっても金額は違ってくることでしょう。
いずれにせよ、迷うということは1年後のその金額と現在の100万円が同じ価値だということを意味します。仮に1年後にもらえる金額が110万円で迷うのなら、その人にとって1年後の110万円と今の100万円は同じ価値だということになるのです。
このとき、1年後における110万円の「現在価値」は、100万円だということになります。
――●現在価値への割引計算
このように時間軸の異なるお金は単純に比較することができません。したがって、時間軸の異なるキャッシュを扱う場合には、一旦現在の貨幣価値に換算した上で比較なり合算なりをしてやる必要があります。この換算手続きを「現在価値に割り引く」と言います
。
(考え方としては、「話を割り引く」という表現の「割り引く」と同じです。将来のお金は現時点でみれば、「額面」どおりには考えられないため、割り引いて考えるのです)
たとえば、設例の懸賞金受け取りの選択パターンが複雑になり、1)1年後に110万円全額受け取る方法と、2)1年後から5年間にわたって毎年25万円分割で受け取る方法の選択だとしたらどうでしょう。
単純に合計金額(1)は110万円、2)は25万円x5年間=125万円)を比較して、2)が有利とは言い切れないのです。それぞれの収入を現在価値に割り引いて(2)の場合には毎年の受取額をそれぞれ現在価値に割り引き、それを合算して)、比較してみないと「合理的な」判断は下せません。