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(Q)企業価値はどのように評価されるのか?

 

(A)売上に評価方法には様々あるが、将来のキャッシュフローの総額を現在価値に割引計算する、DCF(Discounted Cash Flow)法による企業評価がファイナンス理論上の評価。

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§2資本コストの計算


――●金銭の時間的価値

 今日の100円と1年後の100円は同じ価値ではありません。今、安全確実な運用によって年3%の利回りが保証されているなら、今日の100円は、1年後の103円と同じ価値を持ちます。「現在と30年後では同じ1万円でも貨幣価値は違う」と説明すれば、感覚的に理解しやすいでしょう。

 このように、お金には時間的価値というものがあり、現在の1円と将来の1円を単純に合計することは正しくありません。そこで、タイミングの異なるお金を集計する場合には、将来のお金はそれぞれ現在の貨幣価値に換算した上で合算します。この換算手続きを「現在価値に割り引く」と言います。

 DCF法による企業価値の算定は、将来のキャッシュフローを現在価値に割引計算して求めるところに特徴があります。この現在価値計算に使う割引率は、その事業の資本コストが基礎となります。


――●資本コストとは

 ここで、資本コストとは、資金の調達レートを指します。具体的には、資金の調達は負債と資本によることから、両者の調達レートの加重平均をとり、下記算式で求められます(これをWACC、Weighted Average Cost of Capital:ワックと言います)。

    WACC = D/(D+E) x I(1-t) + E/(D+E) x Re

    D:長期有利子負債の時価
    E:株主資本の時価
    I:利子率
    t:法人税率
    Re:株主資本の資本コスト

 なお、注意すべきは、加重平均に用いる負債や資本は時価ベースの数字を用いる点です。投資家は、時価で社債や株式を取引しています。ですから、投資家が利回りを考える際の分母である時価を用いるのです。

 もうひとつの注意点は、有利子負債には短期のものを含まない点です。流動負債は、運転資本を支えるためのもので、設備などのキャッシュを生み出す資産に充てられるものではないからです。但し、日本においては短期の借入金を借り替える慣行があるので、これらの借入は実質長期の負債として扱います。

 以下、負債と株式資本、それぞれの資本コストについて説明しましょう。


――●負債の資本コスト

 負債の資本コストは、要は金利です。ただし、支払利息は税金の計算上費用となるので、節税コスト分を差し引いて考える必要があります。すなわち、金利をI、税率をtとすれば、負債の資本コストは、

    Rt = Ix(1−t)

で表現され、たとえば金利が5%、税率が40%の場合の資本コストは、

    5%x(1−40%)=3%

となります。
 

――●株主資本の資本コスト

 株主資本の資本コストには、2つの構成要素があります。それは、配当と株式の値上がり益です。もし、あなたが100万円を投資して、5万円の配当(インカム・ゲイン)と、10万円の売却益(キャピタル・ゲイン)を手にしたとすれば、あなたは合わせて15%の運用に成功したことになります。

 株主は、両者の構成はともかく、何%かの投資利回りを期待して、その会社の株式を購入しているわけです。株主資本の資本コストとは、この「何%の利回りを期待されているか」を指します。

 この期待利回りは、CAPM(キャップエム:Capital Asset Pricing Model:資本資産価格形成モデル)という理論によって定式化されています。CAPMのベースにあるのは、「投資家は、リスクが高ければ求めるリターンも高くなる」という考え方です。

 たとえば今、ともに利回り3%の日本国債とベンチャー企業の社債があったとします。あなたは、「どちらを買いますか?」と訊かれたら、きっと「国債」と答えるはずでしょう。紙屑になるリスクの高い社債に対しては、国債よりも十分に高い利回りを期待できなければ投資しないはずです。

 CAPMによる資本コストは、次の算式で計算されます。

  Re = Rf+β(Rm−Rf)

    Rf:リスクフリー・レート(非危険利子率)
   Rm:株式市場の期待収益率
   Rm−Rf:市場のリスク・プレミアム
   β:ベータ値

 算式の意味を説明していきましょう。まず、リスクフリー・レートとは、文字どおりリスクのない投資対象から得られる利回りのことです。一般に10年物国債の利回りが使われます。

 式の右項は、株式というリスクが高い投資対象に対するリスク・プレミアムです。リスクが高いことによる、期待利回りの上乗せ分と考えればいいでしょう。リスク・プレミアムは、まず株式市場全体のリスク・プレミアムを測定し、それと個別株式との関連性(β値)を求めることによって算出されます。

 リスク・プレミアムは、何を基準とするかによっていろいろな数字がありますが、一般に20〜30年単位での平均株価の上昇率などが採用されます(10年単位の数字を使うと、バブル崩壊後の現状では、利回りがマイナスという異常値になりかねません)。

 次にβ値は何かというと、その会社の株価と市場全体の株価の動きとの相関関係のことです。その会社の株価が市場全体とまったく同じ動きをすればβは1、ハイテク産業など業績の変動が激しい業種ではβは1を超え、電力など安定業種では株価の動きも安定しているので、ベータは1未満になります。

 なお、β値は企業毎に過去の株価と市場の動きのトレンドから統計的に算出され、一般に直近5年間のデータが用いられます。

 

 こうして計算した負債・株主資本それぞれの資本コストを基にして、はじめに説明したWACCを求めます。


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