――●キャッシュフローと財務管理の体系
キャッシュフローは財務管理の中で基盤というか中核を占めるものです。なぜなら、この項の最初でも触れたとおりキャッシュこそ実体であり、現実だからです。
たとえば利益や運転資本(の増減額)はキャッシュフローの構成要素の1つに過ぎません(ピンと来ない方は、営業キャッシュフローの計算式を復習してみて下さい)。
すなわち、(会計上の)利益はキャッシュフローの下位概念であり、反対の言い方をすればキャッシュフローは財務管理上極めて包括的な概念なのです。
もう少しくどく説明させていただくと、すべてはキャッシュフロー管理という体系の中に位置付けられます。ですから、たとえば運転資本管理はそれ単独で考えるのではなく、キャッシュフロー管理との関係において理解すべきものなのです。
財務管理の体系的な理解を得るには、キャッシュフローをその中心軸に据え、個別項目をその体系の中に位置付けながら理解していくことが必要です。
(ちなみに、債権管理とキャッシュフロー管理の関係を例に考えると次のようになります。)
(上位概念) ・・・> (下位概念)
キャッシュフロー管理 > 運転資本管理 > 債権管理
――●利益とキャッシュフローの関係
このように、(会計上の)利益とキャッシュフローの関係は、キャッシュフローが「本」で利益が「末」です。然るに、これまでの会計のあり方の中で利益とキャッシュフローとの関係が本末転倒をきたしてきたように思います。
それが証拠に、多くの皆さんにとって決算書として思い浮かべるのは、まず損益計算書(P/L)であり、次にバランスシート(貸借対照表:B/S)でしょう(会計に詳しい方なら、この後でようやく「キャッシュフロー計算書」が登場することでしょう)。
ことほど左様に、今までの会計の枠組みは「会計=利益(計算)」となっていました。具体的に会計を学んだことがない人でも、無意識のうちにこの認識が刷り込まれてきたのです。
しかし前述したように、企業の目的は投資家から委託された資金を増やすことであり、フリーキャッシュフローの創出こそが企業のよって立つしるべなのです。
これも繰り返しになりますが、会計上の利益なるものはキャッシュフローの一要素に過ぎません。中長期的に見れば両者は一致するとはいえ、これまでの経営の中では利益とキャッシュフローの主従が逆転し、短期的な利益のためにキャッシュフローが蔑ろにされるケースがしばしばありました。
さて、利益とキャッシュフローの関係を考えると、利益はキャッシュフローに先行するものであり、反対の言い方をすればキャッシュフローは利益の後からついてくるものです。
この両者のタイミングの違いを生む最大の要因は、投資に対する計算の仕方の違いにあります。すなわち、キャッシュフロー上は、投資が行なわれたときに全額マイナス計算されますが、一方、損益計算上は減価償却という手続きにより時間をかけてマイナス計算されていきます。
(在庫の積み増しも同じようなタイミングの違いを生みます。)
この結果、平準化された利益と比べるとキャッシュフローは当初のマイナスが大きくなり、その反対にはじめに投資分をマイナス計算してしまう分、後のプラスが大きくなります。
このように本来、両者の違いはタイミングの違いでしかありません。ならば本末転倒は生じないはずです。だからこそ、利益を上げることが企業の目的とされてきたわけです。
では問題の所在はどこにあるかと言うと、それは利益計算において先送り処理される投資が必ずしもキャッシュに結びつかなくなってきたという点にあります。
減価償却という手続きは、その投資が将来にわたって収益をもたらすことを前提としています。しかしながら右肩上がりの経済が終焉を迎えた現在、その前提は必ずしも妥当するものではなくなってしまったのです。
(在庫もすべてが売れるとは限りません。)
このため、損益計算で経営をミスリードすることを回避すべく、キャッシュフローへと会計の力点がシフトしてきたわけです。